ささやきはピーカンにこだまして
 目に思いっきり力を入れて呼吸を止めたら、視界のすみでなにかが動いた。
「なんだって二紀(にき)が謝るんだよ。おまえ、朝から勧誘でぺこぺこ頭さげっぱなしじゃないか。いくら自慢の姉さんのためだって、そこまでするか?」
 え。
 自慢?
 やだ、だれ、わたし?
「だいたい、バドなんかやるやつ、いないって。おまえは悪くないよ」
 はっ?
 バド……なんか?
「…………」
 そうね。知ってるわ、この声。
「お…おい、(じゅん)
「おい、きみ…」「お黙り!」
 わたしは、きゃしゃな結城先輩の身体を思いきり押し退()けて、二紀の足に向かって足を繰り出した。
 もちろん蹴ってどかすためだけど、気づいた二紀が横に跳びすさったので、空振りした足の先に現れたもう2本。
 おしゃれなカーキ色のカーゴパンツが憎さ倍増。
 ミドリジュン!

「こんにちは、お姉さん」
「…………」
 馬のマークの黒いスウィングトップ。
 グレーのボーダーのビッグポロ。
 ドアに寄りかかってさわやかに笑ってる、生意気な坊や。
「やめろよ、準。このひと、怒らせるとマジこわいからっ」
 二紀が必死でミドリジュンのポロシャツを引っ張っているけど、心配しなくてもわたしは怒るどころじゃない。
 なにしろミドリジュンは今日はキャップをかぶっていなかった。
 なに…それ……。
 きみ、なにそれ、その頭。

 真っ黒なサラサラヘアーに天使の輪っかがキラキラ。

 なによ、その反則。
 むかつく。
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