ささやきはピーカンにこだまして

「あーっ。顔色変わったぁ。(じゅん)が言ってたの本当かぁ?」
「なにがっ」
 あいつがなにを言ったって?
 にらんでやるのに二紀(にき)はニタニタ笑っている。
「ママー。姉ちゃん、好きなひといるんだぜ」
「…なっ」
 こら。ふざけたこと言ってろよ。
 げん!
 テーブルの下で、必殺スリッパつま先蹴り!
「んぎゃっ。なんだよもう。蹴っとばすことないだろっ」
 ぶしゅっ
 二紀のフォークがわたしのお皿を侵略してきてプチトマト1個を強奪。
「なにすんのよ! ひとのプチトマト、返しなさいっ」
「もぅはへひゃっは、よー、ら」
 二紀ぃぃ!
「あーもう。ストップ、ストップ。高校生にもなってなんなの、あなたたちは」
「姉ちゃんが悪い」「二紀が悪い」
 同時に答えてしまえばジ、エンド。
「なんです、一路(いちろ)。年上のくせに」
 ほーらね。
 いつだって、わたしが怒られて終了。
 年上って言ったって、たったの11カ月じゃん。
 わたしが3月で、二紀が2月生まれ。
 ふたりとも早生まれで、まるっと1年余計に生きている同級生たちにもまれて、お互い悔しい思いをしていた7、8歳のころまでは、双子ですかぁ、って聞かれて『ちがいましゅ。おねぇしゃれす』とか言っていたかわいい弟はいずこに?
 それをデレデレ聞いていた甘々な母もいずこに?
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