ささやきはピーカンにこだまして
 見ろ見ろ。
 二紀(にき)のやつ、舌だしてる。
「……ねえ、ママ。ぼく今日、ラケットとシューズ買いに行くんだけど?」
「あら、えらいのねぇ、二紀は。今月はずいぶんおこずかい、余ってるじゃないのぉ」
 ひっひっひ。
 母さんの勝ち。
「なんでよぉ。ちょっとくらい出してよ」
「いやよ。ママに後始末を押しつけておいてなに言ってるの。フリマに出したラケットとシューズ、まだ売れないのよ」
 それは、ほぼ定価で出すあなたの強欲のせいでは?
 (ぷぷぷ…)
 あー、コーヒーがおいしい。
「笑ってないのよ、一路。もとはといえばあなたが誘ったっていうじゃない。あなたのおこずかいをカンパしてあげなさいな」
 はいっ?
「くそケチな姉ちゃんが、そんなことしてくれるわけないじゃないか」
 なんだと?
「ほらほら、ケンカしない。早く食べてくれないと、ママ朝ドラもゆっくり楽しめないわ」
「自分の都合でせかすの、やめてよ」
 でも大変、大変。45分だ。
 こんなアンポンタンにかまっている時間はないわ。
「あ、姉ちゃん。待って! 洗面所ずるいっ」
 べろべろべー。
 トイレも洗面所の三面鏡もわたしのものよ。
 あんたはクローゼットの鏡でも使ってな。
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