ささやきはピーカンにこだまして
 駅ビルの狭い通路のど真ん中を、いちゃいちゃと肩を寄せて歩く男子ふたり。 
 すれちがうよその制服の女子たちが、つつーっとカニかまぼこみたいに左右に割れていく。
 見ているぶんにはおもしろいけど、なにしろわたしには聞こえるのだ、ふたりの会話が。
「えー、それはないよ、膝こぞうはキレイだったじゃん」
「太い。いらん」
「あ、じゃ、今、曲がってきた――、あの右の子は?」
「前髪、作りすぎじゃね? 風が吹いても微動だにしなさそう」
「ぷぷ。(じゅん)、きびしーい」
 うしろでわたしが黙ってると思って、言いたい放題。
「準てぇ、理想高くね?」
 そうだ、そうだ、ツッコんでやれ、二紀(にき)
「そう? おれはね、はっきりしてるだけだよ、好みが」
「そなの?」
「イチローさんは?」突然、実取(みどり)が振り向いた。
「やっぱ、結城さんひとすじ?」
「…………っ!」
 顔が火を吹いた。
 熱い。まずい。
 い、やぁぁぁぁ。
「帰る」
 もうやだ。
 もう耐えられない。
 お下劣なのはもうわかったけど、ひとのことまでどうこう言わないでよ!
「え。――待って、イチローさん」
 うるさいっ。
 勝手にふたりで盛りあがってなさい。
 お姉さんは退場。
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