ささやきはピーカンにこだまして
「イチローさん」
 イヤミなほど明るい声で――いや、イヤミに決まってるけど――わたしを呼んで。
 カラ手で素振りのフォームをして。
 体育館シューズを指さして。
 なにパントマイムしてんのよぅ。
「げっ」
 シャトルの箱にうつむいている結城先輩の背中に、ないしょ話のポーズ!?
「あ…の、くそがき」
 実取(みどり) (じゅん)
 あいつは絶対、悪魔の子よ。



 この状態を、なんと表現するべきか。

 真面目に帰ろうとすると、帰校ラッシュでスクールバスは、ノリノリのライブハウス並に人口密度が高いわけで。
 いつもはそれでも乗っちゃうんだけど。
 今日は、実取の『おれ、混んでるのダメなんだよ、二紀(にき)。座れるまで待っていい?』のひと言で、2台も3台も待たされて。
 すっかり言いなりの二紀は、その間ずっとおしゃべりの相手をしてもらって楽しそうだったけど、あくまで《連れ》じゃないそぶりのわたしは、おしゃべりに加わることもできず、ひたすら待機。
 その間だって充分に不愉快だったのに。
 駅について、駅ビルのスポーツ用品店を目指したら、まぁ、振り返る振り返る。
 お嬢さんたちが、きゃーきゃーと。

< 62 / 200 >

この作品をシェア

pagetop