ささやきはピーカンにこだまして
 くるっと踵を返すと、腕をつかまれた。
「ぼくを、ぶちのめそうとしたよね?」
 ぎくっ。
「インチキしてまで、本気で、ぼくの鼻っ柱を…折りにきた」
「…………」
 だめだ。
 まずい。
 耳が熱くなってきた。
「それほどにバドミントンをばかにされて悔しかったんだって、今はわかってるから、それについてはまぁ、文句はないよ」
「…………」
 やばい、やばい、やばい。
「ずるいよなぁ、ガットのテンションゆるめるなんて。あのときは知らなくて。バドミントンのラケットって、こんなものなのかなぁと思ったけど。練習で結城さんのラケットを借りたら、あー、ちくしょうって」
「…………」
「えー? なにそれ、なんの話?」
 ま…ずい。
 二紀(にき)が興味を持ちだしたじゃないよぅ。
 あーもう。
 とにかく二紀にはわけがわからないうちに謝っちゃうしかない。
 こんな恥ずかしい、卑怯な話……、弟になんか聞かせられないわ。
 も、むずむずする。
 恥ずかしすぎて、どうにかなりそうだ。
「ごめん」
 ぺこりと頭を下げると、実取の黒いスニーカーの爪先がトントンと床を打った。
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