ささやきはピーカンにこだまして
「まさか、それで、ひとの人生を変えちゃったのが、チャラ?」
「……ぅ……」
「――はいっ」
 え?
 なにが「はい」なのか。
 わからなくてオズオズ視線を上げると、実取(みどり)はわたしに向かって肘を突きだしていた。
 な…に、それ?
「これで許してあげます」
「…………」
 もしかして……腕を組めって…言ってる?
 え――っっ!
「よ、せよ(じゅん)。ふざけると、なぐられるぞ」
 二紀くん、そのとうりだ。
 でも。
 やだやだやだ。
 一気に耳の裏まで熱いんですけど。

 きっと真っ赤になっちゃっている顔を見られたくなくて、するっと実取の横をぬけて早足で歩きだす。
「大丈夫だよ、二紀。イチローさんは、おれなんか相手にしてないもん」
 その声は突然シリアス。
 声の主は、あっという間に、わたしを追いぬいた。
「ちょっと、準!」
 あわてた二紀も、わたしを置いて小走りに追いかける。
 わたしは――…。
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