頑固な私が退職する理由

「つーかおまえ、曽根になんか余計なこと言っただろ」
「あー、言ったかも」
 理沙先輩……というか、彼が好きだった人に似ている、というようなことを。
 彼の話から推察するに、それを聞いて「イケるかも!」と舞い上がった彼女は、きっとさらに押してくるようになったのだろう。
「気持ちは嬉しいけど、気ぃ遣うし、地味にしんどい」
 まりこには「彼女ができた」とはっきり言ってもらって、ちゃんと諦めてもらうしかない。
 必要であれば、私も同席するつもりだ。

 森川社長については、「俺にも秘密にしておきたいことがある」と言って、なかなか口を割らなかった。
 それが原因でケンカになり、泣いたり喚いたりキスをしたりを経て彼が白状したことには。
「おまえとのこと、聞いてもらってたんだよ……」
 その回答はまったくもって想定外だった。
 曰く森川社長とは、本当に大学の同期として友人になったのだそうだ。
 共通の知人もいることがわかり、その人たちを含めて集まった際、彼の女性関係の話になって私との微妙な関係がバレてしまった。以来、彼女は愚痴聞き役になったのだという。
 私にとっての司のような存在だろう。
「じゃあ、パーティーの夜は?」
 本当なら、私たちふたりで過ごすはずだった。
 それを彼は、私にはひと言の連絡もよこさずに彼女とふたりで消えたうえ、翌日は同じスーツで出社してきたのだ。
「あの日については俺にだって聞きたいことがあるぞ」
 ここでもまた、驚きの真相が。
 あの日私との暗黙の約束を破ったのも、彼女とふたりで消えたのも、翌朝同じスーツを着て出社したのも、すべて森川社長の提示した作戦だったのだ。
 目的は大きく揺さぶりをかけて、私の気持ちを確かめること。
 司が私との結婚をにおわせたので私と彼の関係が揺らぎ、不安になったのが作戦決行の動機らしい。
 作戦は狙い通り、私の心を揺さぶった。それはもう、絶望を感じるほどに。
 ところが彼は、作戦を最後まで遂行することができなかった。
 なぜなら私も、前日と同じ服を着て出社したからだ。
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