頑固な私が退職する理由

 私たちのこれまでの状況について、彼の言い分はこうだ。

 まず、両想いを確信しているのに彼から告白しなかったのは、私と同じように「絶対に自分からは言わない」と決めていたから、らしい。
 私は新入社員の頃、大地先輩をこれでもかというくらいに追いかけ回していた。
 それを目の当たりにしていた青木さんは、大地先輩に嫉妬して、自分がそれほど追われていないことをコンプレックスに感じていた。
 だから私の方から告白させることで、コンプレックスに折り合いをつけようとしていたのだ。
 見事なまでに自分とシンクロしていて鳥肌が立った。気が合いすぎるのも考えものである。

 私の態度や駆け引きから、彼は私も自分から言うつもりがないのはわかっていた。
 自分が折れて告白するのは簡単だけれど、私の思い通りに行動するのがどうも癪だったらしい。
「俺はおまえのいいなりにはならねーぞ、という意思表示でもあったんだよ」
 これを聞いた時は本当に腹が立ったのだけれど、落ち着いた今となっては笑い話だ。
 若い頃の私は本当にタチの悪いぶりっ子で、手に入れた男はすべからく自分の都合よく行動してしかるべきだと本気で思っていた。
 そんな私だったので、もしあっさり彼と付き合えていたら、意識的に彼を振り回しては支配しようとする悪い彼女になっていただろう。
 そんなことでは長く続くわけもない。
 もしかしたら、このタイミングでよかったのかもしれない……と、ポジティブに考えることにした。

 まりこについては、とにかくいろいろ驚愕だった。
 彼女は意外とアグレッシブなようで、バレンタインデーを皮切りに、毎日のように好き好き言ってきているらしい。
 彼はそのたびにお断りをしているそうなのだが、「私の気が済むまでは諦めませんから!」と宣言し、企画の相談に乗るたび、挨拶のように「付き合ってほしい」と言ってくるのだそう。
 まりこには申し訳ないけれど、彼がちゃんとお断りしてくれていてよかった。
「仕事は仕事だし、企画のフォローをしてやらないわけにもいかないからな」
 好意を隠せてないとは思っていたけれど、まさかそこまでガツガツしていたなんて、毎日一緒に働いていたのに全然わからなかった。
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