頑固な私が退職する理由

 ひとつ懺悔(ざんげ)をしようと思う。

 私は腹黒い性格とは裏腹に、童顔で人好きのする顔をしている。
 若い時分、高校生になったあたりからは、ニコニコしていれば男が自発的にチヤホヤしてくれた。
 ちょっと甘えれば大人の男が簡単に思い通りに動いてくれるので、私はそれに味を占めて、人を思い通りに動かさないと気が済まない、悪いタイプのぶりっ子になった。
 誤解しないでほしい。私は別に、男に金品を貢がせようとしていたわけではない。
 私が欲しかったのは、承認だ。
 鑑美屋の思想に染まらなかった私は母に褒められることが少なかったから、承認欲求が健全に満たされずに育ったのかもしれない。
 とにかく周りの人たち全員に、私自身のことを大切に扱われるべき優れた人間として認めてほしかった。

 だから私は、自己実現のためならあらゆる面で努力を惜しまなかった。
 学生時代は大学で理工学を学びながら短期的にWebデザインの専門学校にも通い、即戦力として認めてもらえるだけのスキルを身につけた。
 おかげで就活時は就職難の時期にもかかわらずいくつも内定が取れたし、もっとも希望通りに勤務できそうだったこのSK企画に入社し、希望通りの部署に配属してもらえた。

 新人研修を終え、初めてこのインターネット事業部に来た日。
 私はひとりの男性に目を付けた。
 先輩社員の丸山(まるやま)大地(だいち)さんといって、外見も能力も、インターネット事業部の中ではひときわ輝いていた人だ。
 彼を手篭めにできれば、余るほどのメリットがある。
 そう悟った私は、それはもう、周りが引くくらいにグイグイ行った。
 彼には付き合いたての彼女(同じくインターネット事業部員)がいたのだけれど、私と付き合う方が彼にとってもメリットがあるのだから、彼女とは別れてしまえばいいと思ってグイグイ行った。

 結果、私は大きな挫折を味わうことになった。
 彼は一切私になびかなかったのだ。


< 15 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop