頑固な私が退職する理由

 ネイルシールのサービス名は「3step Nails」に決定した。
「拭く・貼る・整えるの簡単3ステップで本格的なネイルアートが楽しめる」というのが由来で、これがこのままキャッチコピーになった。
 3ステップの「拭く」は殺菌消毒。爪を清潔に保つための大切なステップだ。「貼る」はもちろんネイルシールの貼り付け。「整える」ははみ出したシールをヤスリで削り落として形を整える作業である。
 私たちは3つのネーミング案を出したのだけれど、森川社長は迷いなくこれを選んだ。「スリステ」とキャッチーに略せるところを気に入ってくれたのだという。

「“サロンと敵対するのではなく、共存することが可能”と聞いて、感動しました。私、サロンからお客さんを奪うことしか考えてなかったんです」
「それではもったいないですよ。私たちはサロンを大口の顧客にすることもできると踏んで、今開拓しているところなんです」
 そう答えたのは、ちょうど提携先のサロンを探してくれている広瀬だ。
 森川社長は目を丸くしている。
「サロンを私たちの顧客に? そんなこと、できるんですか?」
「ネイルシールのオフ、ウォーターケア、そして新しいシールの装着をメニューにしてはどうかと売り込んでいます」
 簡単3ステップを唱うが、自分の爪のサイズに合わせてシールをカットしなければいけなかったり、オフに気を遣わなければならなかったり、整え方にコツが必要だったり、実際は細かい作業がいくつかある。
 慣れればなんてことないのだが、それをサロンが代行してくれるとありがたいなと、私自身が実際にフットに使ってみて思ったのだ。
 それに、サロンにとっても悪い話ではない。
「ジェルネイルより簡単ですし、難しい技術も不要です。国内のネイル協会とも必要な技術基準について相談する場を設けますが、人材の確保は容易になるでしょう。施術も早く終わるので、回転数も上げられます」
 うまく共存できれば、サロンともWin-Winの関係を築ける。
「なるほど。それは生産者ながら、目から鱗でした」

 このプロジェクトはきっとネイル業界に大きなムーブメントを起こすことができる。
 私たちはその影の火付け役になる。
 そしてそれが、私のこの会社での最後の大仕事だ。
 せっかくなら大きな花を咲かせて巣立ちたい。
 この契約を取ってきた、青木さんのためにも。

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