頑固な私が退職する理由
気づけば2月中旬になっていた。
それに気づいたのは、部の女子社員たちがバレンタインデーの話をしはじめたからだ。
我らがインターネット事業部には、頂いたり差し入れたりした菓子類を置いておくスペースがある。小腹がすいた時やリフレッシュしたい時に、社員が自由に取って食べられるようにしているのだ。
バレンタインデーには、女子社員がこぞってちょっとしたチョコ菓子を置く。もちろん女子全員強制ということではなく、置きたい人が置いていくシステムだ。
私も毎年、個装のチョコ菓子を置き、他の人が置いたチョコをいくつか頂いている。
さて今年はどこのチョコ菓子にしようか。
そんなことを考えていると、今日もキラキラしているまりこが無邪気に尋ねてきた。
「愛華さんは手作り派ですか? それとも既製品派ですか?」
もちろん、本命へのバレンタインチョコの話だ。
性格の悪い私は考えてしまう。
この子は私の答えを青木さんに贈るチョコレートの参考にするのだろう。私は彼があまり甘いものを好まないことを知っている。彼女の恋を邪魔するために、本命には気持ちの分だけ甘いチョコを作って贈るのだとでも言ってやろうか。
少しだけ迷って、やめた。青木さんの気持ちがチョコひとつでどうにかなるわけがない。
チョコでどうにかなるのであれば、私はとっくに彼との関係を進展させられているはずだ。
私はもう何年も彼に本命チョコを贈っている。彼好みのあまり甘くないチョコレートを厳選し、彼が無理なく食べられる量だけ。
特にそれらしいラッピングもしないから本命チョコにしては素っ気なく見えるかもしれないけれど、心は込めている。
「私は、付き合うまでは既製品派かな。付き合ってる人が手作りを希望すれば作るけど」
まりこは私の答えに満足そうに「なるほど」と頷いている。そしてチラッと青木さんの方を見た。
ああ、もう疑いようもない。
私のかわいい後輩は、恋のライバルになってしまった。