フラれもの同士(原題:頑固な私が退職する理由)
「決め手かぁ……。私、過去ばかり見てたかも」
恋に敗れた時、共に励まし合いながら絆を深めたこと。
日々の仕事で、共にたくさんの成功体験を積み重ねてきたこと。
丸山夫妻の披露宴のために、任された大役を全うしたこと。
思い出すだけで体の奥が疼くほど、甘くて濃厚な夜を過ごしたこと。
これらすべてが青木さんとの特別な思い出で、彼を好きになった軌跡で、彼を素晴らしい男性だと思う根拠でもある。
だけど私はこれらの思い出を慈しむばかりで、これからどう思い出を作っていくかについてはあまり考えてこなかったかもしれない。
彼にしてほしいことばかり思い描いて、愛されることばかり夢見て、それが叶わないことを不満に思っていた。
ほんと、しょうもない。
私たちはアラサーと呼ばれる世代で、一時的に楽しく過ごす相手ではなく、生涯の伴侶を求める年頃だ。
これからふたりでどんな風に幸せな未来を築いてけるかが大切なのに、私にはそのビジョンがない。
「決め手に欠けている」という司の言葉は、なんだかとてもしっくりと納得できてしまった。
「そういうわけだから、青木さんはさっさと諦めろ」
「はぁ? なんでよ!」
てっきり青木さんとうまくいくようアドバイスをくれてたんだと思っていたのに。
司は飄々とした態度で言う。
「なんでって、ほぼ失恋しかかってる相手を追いかけるより、俺と結婚すればよくね?」
ほぼ失恋って、勝手に決めないで。私はまだ、青木さんとは両想いだと思っているんだから。
いや、そんなことより。
「あんた、私と結婚するつもりがあったの?」
「つもりもなにも、実は言い出しっぺは俺」
「ありえへん……なんで私なん?」
長い付き合いの中で、そういう雰囲気になったことなど一度もないのに。
「だって愛華は俺のことも俺の家のこともよくわかってるから、ある程度の生活を保証すれば、あとは勝手にうまくやってくれるだろ?」
つまり、御園家の超裕福な生活を保証する代わりに、司の女遊びを見逃しつつ当主の妻の務めを果たすだろうと?
「クソが」
「口が悪いぞ」
「おまえなんかと誰が結婚するか」
「つれないなぁ」