コイノヨカン

もう一つの条件

トントン。
助手席の窓がノックされた。

あっ。

ガラス越しに見えるのは、無表情の渉さん。

「嘘でしょ」
つい口から出てしまった。

トントン。
再度ガラスをノックされ、私は車を降りるしかなくなった。



「何をしてる？」

車を降り目に前に立った私に、渉さんが詰め寄る。
こんな風に静かに話す渉さんは、一番怒っているとき。

「今日は、萌さんの家に泊まります」
「聞いてない」
すぐに帰ってきた返事。

「奥様には言いました」

「俺は聞いてない。それに、何で電話に出ないんだ」

「・・・」

「誰かと一緒だったのか？」
運転席を覗き込む渉さん。

「あ、あの、渉さんには関係ないんです」

ここで健さんと鉢合わせしてはさらに事態が悪化すると咄嗟に取り繕おうとしたのに、私の一言がさらに渉さんを怒らせてしまった。

「おまえっ、」

うわ、怖。

その時、

バタン。
運転席のドアが開く音がした。

当然、私も渉さんも視線を向ける。