コイノヨカン
「そうだ。さっきの契約書に追加。条件5、お前は俺の監視下以外で酒を飲まないこと」

「え?」

「不満か?」

「はい」

いくら何でも、そこまでしなくても。

「へー、酔っ払ってナンパされてお持ち帰りされそうになって、道路に飛び出してひかれそうになったくせに、不満なのか?」

「・・・」
ズルい。そんな言い方されたら文句が言えない。

「そんな泣きそうな顔をするな。じゃあ、飲み会に行くときには事前に連絡すること。これでいいか?」

「はい」
どう頑張ってもこれ以上は譲ってくれそうにない。

俺ってなんて優しいんだなんて呟きながら、嬉しそうな専務。
この人はドSだ。

「帰るぞ」
そう言うと歩き出す。

「あの、私からも追加の条件があります」

振り返り、ジーッと私を見る専務。

「条件6、私のことをお前と呼ばないこと」

1歩2歩と戻ってきて、私の顔を見下ろし、

「条件7、2人で会うときはお互いを名前で呼ぶこと。専務とは呼ぶな」

名前?

「これでいいかな?栞奈」

名前を呼ばれただけなのに、急に顔が熱くなる。

「それは・・・」

「俺もお前って呼ばない、だから専務って呼ぶな。代わりに名前で呼ぼう」
うんこれはいいなどと、満足そう。

「専務。いきなり名前なんて・・・」

(わたる)だよ」

さあ呼んでみてと、視線が訴える。

でも、

「さあ」

「渉さん」

顔から火が出るってこの事。

すっかり機嫌の戻った専務、いや渉さんと、私は自宅に向かうこととなった。
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