maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

黙り込んでしまった私の前まで来た天野さんが肩に手をぽんと置き、小さな声で「でかした、俺のなんでも屋」と笑った。

「どう?」
「いや、めっちゃ良いですよ」
「うん、凄くいいと思います!」
「そうだけど、でも今からじゃ」
「これを実現できればリピート率も……」

様々意見が飛び交う中、天野さんがコツンとホワイトボードを叩く。

「予定していたサラダバーのところをバーカウンターに変更しよう。あと導線の見直し。松本」
「はい、業者に電話入れて打ち合わせし直します」
「デザイナーさんすぐ捕まえて内装頼んで」
「了解です」

その指示だけで、松本さんがバタバタと会議室を出ていった。

「メニューもカフェで出す酒とバーで作るのも分けたい」
「はい。サーバーも見える位置にあるといいですよね」
「うん。バーテンは他の従業員よりも早めに募集かけよう。こっちからも何人かに声掛けたい。リストアップして」
「はい」
「従業員の何人かもバーテンとして立てるよう研修マニュアル見直そう。バーテンの資格持ってるベテランに研修見てもらえないかな。こっちも探してみて」
「了解です」
「それから販促チームは」

思いつく限りの指示をどんどん出していく天野さん。

淀んでいた会議室の空気が急に晴れて澄み渡っていく。

みんなが天野さんに着いていこうと、熱い視線を彼に送る。

「上は俺が説得する。わかってると思うけどとにかく時間がない」

ニッと天野さんが不敵に笑う。

身体中がドキドキいって、呼吸さえも浅く喘ぐように心許なくなっていく。

私はとんでもない人の『なんでも屋さん』になってしまったのかもしれないと今更ながら思った。

「悪いけどみんな。俺と心中して」


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