結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
「ハイネ様、村の女性が村長の家まで案内してくれるそうです」



 その女性と会話していたバシリーがジルとハイネの元まで走って来て、やり取りの内容を伝える。



「分かった」



 ハイネが女性に近付き、「宜しく頼む」と声をかけると、その女性はリンゴの様に頬を染め、何度も頷いていた。

 もしかしたら女性はハイネの顔を見て案内すると決めたのかもしれない。顔の良い人はそれだけで得なのだと、ジルは感心して眺めてしまった。



「ジルはここに残っているか?」



 ハイネは女性から視線を外し、ジルの方を振り返った。

 残るという選択肢が無かったジルは、ちょっと驚く。



「私も行きますわ!」



 ハイネと女性の元へと行くと、女性の視線が突き刺さった。



「綺麗な娘……貴族はこんなに違うべか……」



 つまらなそうな顔で俯く彼女の態度に動揺する。



(私、そんなに綺麗じゃないと思うわ……)



 俯く女性は愛嬌のある顔立ちなので、男性にモテそうになのに。



「グズグズしてないで、さっさと案内してもらっていいか?」



 ハイネは微妙な空気を敢えて読まなかったようだ。うんざりした顔で腕を組むその姿は日頃目にするバシリーへの態度とあまり変わらない。

 村の女性はそんなハイネを唖然とした表情で見つめた後、厳しい顔つきで、道を歩き出した。



(もっと言い方ってものがあると思うのだけど!)



 きっと彼のこの辺が、ブラウベルク帝国の貴族の女性にモテない原因になっているのだろうと、ジルは思わず半眼でハイネを見てしまった。



(最近少し優しくなってきたと思ったのに、勘違いだったのかしら?)



「ジル様、私は魔女として捕らわれている女性の様子を見に行きます。何か起こったらジル様の元に飛んでいきますので……」



 いつのまにか馬車を下りていたマルゴットがジルの隣に並び、ハイネ達が進んだ方と別の道を指さした。



「分かったわ! どうか気を付けてちょうだい」



「はい。ジル様もお気を付けてくださいませ」



 彼女はペコリと頭を下げ、フラフラと小路を歩いて行く。頼りなげな細い背中を見ていると、心配になってしまう。以前この村の住人とトラブルがあったわけだが、何もなければいいと思わずにいられない。



 彼女が道の角を曲がり、見えなくなってから、ハイネ達を追いかける。バシリーやオイゲンも村長の家に行くのか、ジルに付いて来た。



「ジル様、この村を良く見て行ってくださいね。この国の未開の地では、同じ村の仲間を自分達の手で殺していくんですよ。自分達で村を衰退させていくんです。笑ってくださっても構いませんよ?」



「先輩。不謹慎な事を言ってジル様を困らせないでください」



 村を見下す様な事をバシリーが言い、オイゲンが窘める。この旅でよく一緒にいる彼等は、だいたいこんな感じで会話している。



「よその村に移住する村人が後を絶たないみたいですわね。人口が少なくなっている事は深刻ですし、私達は元の平和な村に戻してあげる為に頑張りましょう?」



「流石ジル様です。私も微力ながら尽力いたします」



「ブラウベルクの為に有難うございます。お優しいですね」



 ジルが2人を振り返り、両手を握りしめて喝を入れると、オイゲンは嬉しそうにジルと同じポーズをとり、バシリーは困った様に笑った。



 前を向き、ハイネの位置を確認すると、ちょうど一軒の家に入って行くところだった。



「あそこが村長の家なのかしら? 急いで追いかけましょう」



「そうですね」「急ぎましょう!」



 3人でハイネが入って行った家の入口へと走ると、中から会話が聞こえてくる。

 もうハイネと村長が話し始めているのだろう。



「今から300年前、ブラウベルク帝国ではフリーデン平和令が施行され、私刑を禁じている。貴様まさか村長でありながら、そんな事も理解していないのか?」



「オラには村を平和に保つ責任があるだ! 魔女に呪われ、病んでいく村を黙って見てろと言いたいだべが!? アンタ、皇太子言いよったな? オラ達の嘆願を無視して見捨ててきたくせに、今更偉そうな事言うな!」



(わ! もう始まっちゃってるわ!)



 家屋に入ると、ハイネと村長が対峙していた。案内してくれた女性はその様子に耐えかねたのか、入口付近で震えていた。



「この村からの嘆願書? ジルからのしか受け取ってないぞ……。まぁいい。今回対処するために来たんだからな。それより何故魔女の仕業だと思った?」



「適当なことばっかし言いやがって!! これだがら国は信用ならん!」



「と、父さん……。せっかくこの村さ来てくれだわけだし、説明してもいいんでねが?」



 何と案内人の女性は村長の娘だったのだ。

 娘に窘められた彼はギラギラしていた眼差しが弱まった。



「ちっ! しょうがねーべな! 3年前村さ来た修道士が、村に起こる異常な現象は全部、粉屋の娘のせいだ言うもんだがら、その娘を村から追放した。そしたら悪しき事はパッタリ無くなっただよ。だがら、おかしな事は全部魔女のせいだと確信したんだ!」



「それは違いますわ!」



 ジルは村長の話に我慢できなくなり、つい口を挟んでしまった。



「な、なんだアンタ……!」




「流産等、悲しい出来事が一時的に止まったのは、麦の不作の時期で、貯蔵していたライ麦が底をついたからではありませんの?」

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