男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

 ノージーの背中が見えなくなると、ピケは熱くなった耳を押さえてその場にへたり込んだ。
 冬の空気で冷えた廊下が気持ち良く感じられる。
 そこでようやく、耳だけでなく顔まで火照っていることに気がついて、ピケは恥ずかしそうに三つ編みを引き寄せて顔を隠した。

「ああ、もう」

 誰も見ていないし、三つ編みで顔が隠れないことはわかっている。だけどそうしないと、今すぐにでも胸が破裂しそうだった。

「本当、こまる……」

 目を閉じると、暖炉に残っていた種火が燃え上がるように、ノージーのささやき声が聞こえてくるようだ。
 またあとで。
 甘くて苦い吐息混じりの声は、いまだに飲み慣れないカフェオレの味を思い起こさせる。
 それっていつのことなのだろうと、ピケの胸が期待に膨らんだ。

「期待、なんて……」

 なんてことを考えるのだろう。
 とんでもないことを考えそうになる自分がただひたすらに恥ずかしくて、泣きたくなってくる。
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