男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
(あの時の私……ノージーに抱きしめられたいって思っていたわ)

 考えないようにしようと思えば思うほど、思い出すきっかけが溢れ出てくる。
 逃げたいと思う気持ちと同じくらい、逃げられないように強引にでも抱きしめてほしいと思ったことを思い出し、とうとうピケの思考が停止した。防衛本能だったのかもしれない。
 焼き立てのスフレが萎んでいくように、ピケの頭がふしゅうと音を立てながら考えていた事の一切合切を圧縮していく。小さくなったそれは、心のどこかにしまいこまれた。

(ああ、困ったわ。いっぱいになっちゃう)

 ピケの心の中は空っぽだったはずなのに、いつの間にか小さな宝物がいっぱいになっていた。どれもこれもノージーが絡んだものばかりで、無意識のうちに苦笑いが浮かんでくる。

「これがいっぱいになって、しまえなくなったら……何か変わるのかしら」

 弾けて消えてしまうのか。それとも──。
< 196 / 264 >

この作品をシェア

pagetop