偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「なにがそんなに悲しい。若月のことか? あれはただの経理だよ」

なに言ってるんだ、俺。

「……若月さんのこと、すごいと思いました。あんなに自然に、冬哉さんに『相談してください』って言っていたから」

「は?」

「私にとって、冬哉さんはすごい人で……ずっと尊敬する存在で、冬哉さんの相談を聞いてあげようなんて考えたことがなかったんです。でも、若月さんは聞ける。それってすごいです。とても優秀で、対等なんだと思います。すごい……」

なにが言いたいのかまったくわからないが、凪紗が若月を褒めるたび、「そうじゃない」という感情か湧き出てくる。

「私には、なにもない……冬哉さんを好きだという気持ちだけで、なにもできない。恋人だと名乗る資格もなかったのかもしれません。自分が嫌になります。冬哉さんにすがるだけの、こんな自分が……」

なんでだよ。なんで、そうなるんだよ。
< 142 / 211 >

この作品をシェア

pagetop