偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

目蓋が赤く腫れ、絶え間なく滲み出る涙を流している。もうこの泣き顔を見るのは何度目だろう。

凪紗は泣き虫だが、付き合っているときは泣かせないようにしていた。代わりに向けられる笑顔にいつも黒い感情が渦巻いていたが、こうして泣き顔を見続けるのは、それ以上にストレスに感じる。

「本村。お前、アポは?」

「あ! そうだった。もう行かないと」

目を覆う凪紗と向き合ったまま、「また話しに来るからな」と言い捨てていく本村には返事をしなかった。

奴が部屋を去っていき、さらに凪紗の泣き声だけが顕著に響く。

「……泣くな」

不快感を思いきり語気に表し、ため息とともにつぶやく。

「……すみません……」

謝れとは言ってないだろ。

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