偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
ファイルから見えている表面に書いてある、『雲のケーキの作り方』の文字。これが、冬哉さんのおばあさんの字なんだ。
歴史館では何度も見たことがある。たしかに、おじい様の筆跡ではない。どうして今まで、誰も疑問に思わなかったのだろう。
ファイルから出し、小さな手記を一度、胸に抱き締めた。
見たことのないおばあさんに〝今、冬哉さんのもとへお返ししますから〟と心の中でつぶやいてから、それをハンドバッグの内ポケットの中へ入れる。
すると──
背後のスライドドアが自動で閉まり、エンジン音が響いた。
「……え?」
窓の外の景色がゆっくりと動き出す。
咄嗟に運転席と助手席の間から身を乗りだし、「アキトくん?」と声をかける。彼の横顔はフロントガラスを向いたまま応えてくれない。