偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
人通りは少ない。私は車へ向かって一歩踏み出した。助手席の窓からは運転席にいるアキトくんが見えており、スマホ見ていた彼は私に気づくとすぐに窓を開けた。
「よっ、凪紗。本当に来たな」
「アキトくん!」
声を聞き、思わず駆け寄って助手席の窓にかじりつく。
一週間ぶりだが、ホテルに缶詰めになっていた私は彼の顔を見ると、緊張しっぱなしだった心が和らいだ。
「アキトくん、本当にありがとう。それで、手記は?」
「あるよ。うしろに置いてある」
彼は親指を後部座席を指す。そっちに目をやると、A4のクリアファイルに入れられた四つ折の小さな紙が、彼の鞄とともに置いてあった。
「本当に持って来てくれたんだ……」
「ああ。俺は凪紗のお願いは昔から断れないんだよ。うしろに乗って、持ってけ。その代わりお前は帰るんだぞ」
「うん」
私は後部座席のドアを開けて乗り込み、奥にあるクリアファイルに手を伸ばした。