偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「お義父さん、会社はまあ、変わらず順調です……。ああ、凪紗もだんだん秘書室に慣れてきていますよ」

父は歯切れ悪くつぶやき、私を巻き込んで苦笑いを浮かべている。

おじい様が現役を退いた今はトップであるはずの父も、やはり創業者の前では無力になってしまう。
役員や関連会社の社長を固めている親戚一同からも担がれているおじい様に、金森家は誰ひとりとして反抗できる者はいないのだ。

でも、今日はなんとしてでも帰ってもらわないと。冬哉さんと鉢合わせになるわけにはいかない。
だってーー。

「ところで、達馬くん。別荘の改装も済んだとなれば、もうあの八雲とかいう青二才と今度こそ手を切れるんだろう?」

おじい様は、冬哉さんを毛嫌いしているからだ。

昨年、父がお世話になった建築士さんとして冬哉さんをおじい様に紹介したときから、もう顔を合わせたくないと駄々をこねるほどに一方的に嫌悪しているらしい。

「えっと、それは……」

父は冷や汗をかきながら、こちらへ目配せをする。私があまりにもムスッとした顔をしていたからだろう。
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