政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
 茶化そうとして声が震える。最後までちゃんと言えずに、語尾が消えていった。

「……真白」

 秋瀬くんはいつものように『しろちゃん』と言わず、私の名前を呼ぶ。こんなに切なく寂しい声を聞いたことはなかった。

 誰もなにも言わず、しんと冷たい沈黙が辺りを包み込む。

 その重苦しい空気を裂いたのは、新しく会議室に入っていた人物だった。

「話を詳しく聞かせてもらいたいな」

「お父さん……」

 秘書に荷物を預けた父が私たちの横を抜け、重役たちの方へと向かう。ひとつだけ空いた席に腰を下ろすと、ふうっと大きく息を吐いた。社長としてどこかの会社に足を運んでいたのだろう。

 父がいないことに今更気付くなんて、私の頭は本当に秋瀬くんでいっぱいだったようだ。

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