政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
「リビングで食う。自分の部屋には戻ってもいいけど、俺のとこには来るなよ。マジで襲うからな」

 相変わらず私を見てくれないどころか、顔を逸らしている。だからといって私から見えなくなるわけではなく。秋瀬くんが赤くなっているところを初めて見てしまった。

「……照れてるの?」

「あんなキスしたあとで、平気な顔してられるか」

 ふいっと秋瀬くんは私に背を向けると、逃げるように部屋を出て行った。廊下の足音が遠ざかる前に、すとんと腰が抜けてへたり込む。

 あんな、キス。

 秋瀬くんにとっても、いつもとは違うキスだったのだ。それも真っ赤になって目も合わせられなくなるような。

 手の中から再びアイスが転がり落ちる。

「秋瀬くん、なのに」

 もうこれ以上は速くなるまいと思っていた心臓が、さらに激しく高鳴り出す。私の方がこの部屋を出たかった。ここは秋瀬くんの存在を感じさせすぎる。

「秋瀬くんなのに……」

 アイスに触れていたはずの手は少しも冷たくない。顔の火照りをどう冷やせばいいのか、もう私にはわからなかった。
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