俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
蒼泉は心配が〝過ぎる〟のだ。

そりゃ、仕事始めは体調を崩したこともあった。
でもそれからは、自分で体調管理に気を使ってきたし、あれ以来熱も出していない。
健康に、ここまでやってきた。

こうも心配されてばかりだと、気が滅入ってしまうのも分かってほしい。

「とにかく。 挙式と披露宴で招待する方を分ける訳でもない。 だったら一日でいいでしょう。 明日の打ち合わせは私ひとりで行ってきます」

私は話を打ち切るようにお茶を飲み干し、席を立った。
蒼泉は訝しげな表情で私を見つめ、言った。

「いっそ、式も披露宴もやめてしまおう」

「なに、言って…」

「別に俺は、どっちもやらなくていい。 おばあさんに花嫁姿を見せたいなら、写真だけ撮ってよしにしよう」

どうして? どうしてそんなこと言うのよ。
先に言い出したのは蒼泉の方なのに。
『あやめのドレス姿は可愛いだろう。 楽しみだ』って言ってたのに。

別に俺はやらなくていい?
写真だけ撮ってよしにしよう?

確かにおばあちゃんに花嫁姿は見せたい。
式を挙げて、ウェディングドレス姿を見せたい。

だけど何より、私が蒼泉の妻として、彼の花嫁になりたい。
蒼泉の隣を、私が歩きたい。
みんなに祝福されて、一生に一度の主役を味わいたい。
それが彼の妻という立場なんて、嬉しくて、楽しみだった。

式の打ち合わせをするのも、ドレスを選ぶのも、お色直しは何回だとかあれも着たいこれも着たいって、二人で笑いながら決めたいことだってある。

蒼泉も、そう思ってくれていると思っていた。

けど、私の独りよがりだったんだね。

蒼泉は、私が戸籍上妻になればそれでいいって思っているのかもしれない。
面倒ごとは嫌いだものね。

「蒼泉は私をなんだと思ってるの? すぐ壊れるか弱いロボットか何か? 私はあなたの妻として、バージンロードを歩いちゃいけないの?
だいたいね、蒼泉は何かにつけて心配しすぎなのよ。 すぐ大丈夫か大丈夫かって。 行き過ぎた心配や気遣いはいらない!」

言い過ぎだ。いくらなんでもこれはダメだ。
蒼泉が眉を下げて困ってる。
ただ心配なだけなのにって顔で私を見つめてる。

だけど一度溢れ出した感情は引っ込みがつかない。
口をついて、文句が出てくる。

「蒼泉と、このまま結婚していいのか分からなくなってきた。 もう、疲れた」

冷えきった、心無い言葉だった。
蒼泉が傷ついた顔をしている。
ガーーンって顔してる。
取り消さなきゃ。 今のは嘘、ごめんなさい。本当はそんなこと、思ってないよって、言わなきゃ。

でも、言えなかった。
取り消せなかった。
酷い言葉でも、本音が交ざっている。
もう少しマシな言い方があったかもしれない。
ちゃんと話せば、きっと蒼泉だって分かってくれるはず。

蒼泉の過保護だって、私を大事に思っているからこそのこと。
彼はそういう人だ。

ただ、私がわがままなだけなのは、頭ではわかっているのに。

一般男女にある〝恋愛〟が生まれても、私たちの関係は変わらなかった。
それどころか、不満や文句が爆発してしまった。


蒼泉の傷ついた顔を見たくなくて、私は足早に寝室へ逃げ込んだ。

こういうときのために、自分の部屋をきっちり作っておけばよかった。

空いている部屋は自由に使っていいと言われたけど、私物が少ないから、共有の寝室のクローゼットで十分だったのだ。

ベッドはひとつしかないし、逃げ場は寝室しかない。


やるせなさを抱えながら、泣きたくなるのをこらえて無理やり目を瞑った。

キングサイズのベッドの、今までで一番端に身を寄せて。
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