俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい



翌日は土曜だった。
私はお休みだけど、蒼泉は出勤だ。
簡単な朝食を二人で食べ、蒼泉を見送る。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

交わしたのはそれだけで、蒼泉の言葉には明らかに覇気がなかった。
朝起きてからずっと何か言いたげな蒼泉を無視したのは私。
昨日の今日でどんな顔をすればいいのか分からなかったのと、怒りは治まっていないから。

どちらかが謝らなければ、この先もずっとこのままだ。
好き同士なのに、すれ違いから婚約破棄になるかもしれない。 それは嫌だ。

どうにかしなきゃ。
何をすべきかは分かりきっている。

私が謝って、気持ちを伝える。

でも蒼泉は?
彼にだって悪いところは少なからずある。

元々私は彼の過保護に苛立っていたのだから。

結局、そんな調子で思考は無限ループ。
何も解決しないまま。


その日宣言通りに式場へ一人で行った。
衣装合わせの予定だったけど、決まらない。
それどころか、ドレスのデザインの希望を聞かれてもまともに答えれない。
プランナーさんには、『お疲れのようでしたら、また日を改めましょうか』と気を遣わせてしまう始末だ。

平謝りで式場を後にする私に最後まで笑顔を崩さなかったプランナーのお姉さんに見送られ、私はとぼとぼと帰途に就いた。
けれど途中で足を止める。
このまま家に帰っても、ぐるぐる考えてしまって何も手につかない。
家じゃないどこか……そうだ。実家だ。

おばあちゃんに会いに行こう。
誰かに話を聞いてもらえば、私の気持ちも落ち着くかもしれない。

そう思い立ち、私はくるりと行き先を変えて駅に向かった。

実家へは一駅で着くので歩こうか迷ったが、おばあちゃんに会いたい気持ちが先行して電車に乗り込んだ。

思えばつい数ヶ月前までほとんど毎日利用していたこの電車に乗るのも随分久しぶりだ。
蒼泉と一緒に住むようになってからは、出かける時の移動手段は彼の車が基本になったから。


あっという間に実家のある最寄り駅に到着し、そこから目的地まで歩く。

相変わらず繁盛しているようで、店の前には行列ができている。
そういば、今はお昼時だ。
私もお昼はまだ食べていない。
せっかくだから、並んで〝陸海〟の和食を堪能しよう。

そうと決めると急にお腹が空いてきた。
列の最後尾に並ぼうと、踵を返した時だ。

「あらあやめ! 丁度いいところに来た。 買い出し行ってきてちょうだい! 暇なんでしょう」

お客になろうという私にそう声をかけたのは、店の裏口から白と紺のエプロン姿で出てきた母だった。

娘の帰還を喜ぶより先にお使いですかお母様。

「お母さんもお父さんも今いっそがしいのよ! ね、頼んだわ」

私の方へかけてくるなり、小さなメモ用紙をぎゅっと握らせる。
私がほうけている間に、母の姿はもう店の中へ消えていった。

手のひらのメモ用紙をそっと開くと、案の定、そこにはここらへん一帯の店の名前と食材がびっしり記されている。

陸海では地元の食材を使っている。
あっちこっちの魚市場やら八百屋に飛び回らなければならない。

私は顔を上げ、お客さんの列をもう一度見た。
仕方ない。お客さんが待っている。
それに、何かしていた方が気も紛れるだろう。

いっちょやってやろう。

そうして私は、まず魚市場に向かうのだった。
< 51 / 56 >

この作品をシェア

pagetop