DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々

「……知っている。塩原さんは結構なお年だったからな」

「ええ……って、オーナーをご存じなんですか? お店にいらしたことが?」


甘党なら、きっといろんなお店を把握しているだろう。
わたしが働き始める前に、来店していたのかもしれない。

しかし、彼は首を横に振って、思いもよらぬことを言い出した。


「ああ。ずっと利用させてもらっていた。頻繁にではないが」

「ずっと……?」

「子どもの頃、この辺りに住んでいたんだ。中学に上がる時に引っ越すことになって、しばらく遠ざかっていたんだが、大人になってからは最低でも月に一度は利用していた。最後の日には、思い残すことのないよう全商品を注文した」

「全部……もしかして……」


そんな真似をした常連さんは、ただ一人。


「声が……ちがうじゃないですか」

「声? ああ、あん時は現場で叫びまくってて、嗄らしてたんだ。すっかり自己紹介が遅れてしまったが、辛島 虎之介(からしま とらのすけ)だ。三十二歳。以後、お見知りおきを」

「あ、甘利 桃果(あまり ももか)です。二十八歳。よろしくお願いいたします」


お見合いのような面接のような、なんとも言えない自己紹介になった。


「それにしても、残念だ。日本にいる時間が長くなるなら、塩原さんの店に通い詰めたいと思って、店の近くに部屋を借りたのに……」


せつない溜息を吐いた彼はがっくりと肩を落として床に座り込む。
そんな様子が、警戒心を薄れさせ、ずっと確かめたかった問いが口からほとばしる。


「あのう、お仕事は何を?」


あまりイメージは湧かないが、意外とデスクワークの仕事をしているのかもしれない。

もしくは……。

祖母と一緒に見たいくつかの映画のタイトルが脳裏を過ったが、彼が口にしたのは真っ当な職業だった。


「大雑把に言えば、建設業だ。マンションとか、橋とか、道路とかを作ったりしている。現場にいるほうが好きなんで、日本にいないことが多かったんだが、そろそろ落ち着けと周りがうるさくてな。ホテル住まいを改めることにした」

「さようですか」


ホテル住まいで用が足りるなんて、ほぼ日本にいなかったということだろう。


「もしかして、英語ペラペラ……ですか?」


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