DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
海外で働くなら、英語は必須。力仕事にはあまり必要ないのかもしれないが、異国で安全に暮らすためにも言葉は重要だ。


「いや、生きていくのに支障がない程度だ。かなり適当。現地の言葉を話したほうがぼったくられないから、できるだけそっちを話すことにしているが」

「ぼったく……現地って?」

「インドネシア、マレーシアとか。ベトナム、シンガポールに……まあ、公用語がいくつもあるような場合は、英語で話すこともあるけどな。挨拶とかちょっとした言葉は、なるべく現地の言葉を使うようにしている。そのほうが、現場の人間たちと打ち解けやすいからな」

「は、はぁ……」


なんともグローバルな話に、ついていけない。
わたしの海外経験は、卒業旅行のハワイが最初で最後だ。


「そんなことより、怪我はしなかったか? けっこう派手に転んでいたが。捻挫や打ち身も、侮れば長引く」

「大丈夫です。頑丈にできてるんで」

「どこがだ? ちょっと力を入れたら折れそうだったぞ」


真顔で言われ、心の中で反論する。


(その筋肉ギガ盛の腕で力いっぱい抱きしめられたら、ヒグマだろうとプロレスラーだろうと骨が折れるでしょうよ……)

「それに、いくらまだ早い時間とは言え、まともに立てなくなるほど飲むのは不用心だ」

「急にドアが開かなければ、無事部屋に辿り着いてました」

「その点については詫びるが……辛いときに、ひとりで飲むもんじゃない。ますます辛くなるだけだ」


思いがけない言葉にハッとする。

こちらを見つめる鋭い目には、不似合いな優しい色がある。


「十分酔っているのに、もっと酔いたいと思うのは、酔わなきゃ忘れられないことがあるからだろ? あんたは、誰かに愚痴を吐き出すのも、八つ当たりするのも我慢して、ひとりで泣く。そういうタイプだろ」


勝手に決めつけるなと言いたい。でも、言えなかった。

会ったばかり、まともに会話したことさえないのに、どうしてお見通しなのだろう。


「な、んで……そんなことわかるんですか?」


当然の質問に返ってきたのは、コワモテに似合わぬナンパな言葉。


「そりゃ、惚れた女のことなら何でもわかる」


こんな風に、不意打ちで優しくされるのに慣れていない心は、あっという間に傾き、転がり落ちていく。

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