DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
そんな自分が腹立たしくて、悔しくて、吐いたことのない悪態が口から飛び出す。


「……バッカじゃないの。奥さんいるくせに」


かわいげのない態度に怒るかと思いきや、面白がられた。


「おっ! 意外と気が強いんだな? けっこう流されやすい性格かと思っていたが。ちなみに、俺は独身だ」

「不倫男の常套句。お店に引き取りに来た綺麗な女性、奥さんでしょう?」

「あれは、部下だ。仕事中に私用を申し付けるとは何事かと、あのあとさんざん文句を言われた。もう二度と頼めそうにない」

「嘘……」

「嘘じゃない」

「信じられない」

「信じてもらえないのは残念だが、事実だ。嫁がいたら、単身用の部屋は借りんだろ」

「それは、そうですけど……連れ込み用とか」

「アンタ、どんだけ俺をクズ男にしたいんだよ」

「……ごめんなさい。ちょっと、いろいろあって、イライラしてて……」


電話口で聴く声が、ちょっと好みだっただけ。
それ以上の気持ちはない。

それなのに、なぜかほっとしている自分がいる。


「イライラしている時に、甘いものは効くぞ? ちなみに、意外とビールも合う。ああ、でも、アンタはもう飲むな」


彼は、わたしの許可も取らずに、先ほどしまったばかりの缶ビールを冷蔵庫から取り出した。

自分の分だけ。

わたしには、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。


「二日酔いの予防にも、号泣の下準備にも、水分補給は必要だ」

「号泣なんか、しないです」


不覚にもこぼしてしまった涙を拭い、すんと鼻を啜って、ミネラルウォーターをひと口飲んだ。


「皿はいらないよな?」


彼が開けた小さめの箱の中には、手のひらサイズの細いエクレアが二本入っていた。

さりげなく印字された箱の店名からして、たぶん「Souvenir」で一番高いケーキの二倍の値段はするだろう。


「ここのエクレアは、コーティングしているチョコレートも中のクリームも上品な甘さで、シュー生地が特に美味いんだ」


彼は手づかみで、チョコレートの面を下にし、二口で平らげる。


「逆さにすると、より美味い。騙されたと思ってやってみろ」


言われるままに食べてみると、確かにチョコレートの味がよくわかるし、美味しいかもしれない。

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