DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
唐突な問いに、思わず余計な情報まで付け加えてしまう。


「ごま蕎麦……おい、ヤス! おまえ、ごま蕎麦の美味い店知ってるか?」


部屋の中へ向かって彼が叫ぶと、呆れたような若者の声が返って来る。


「トラさん、いまどき引っ越しの挨拶に蕎麦なんて配りませんよ。江戸時代じゃないんだから。おしゃれなタオルとかのほうが、いいっすよ」

「え、そうなのか? というわけで、タオルならどこのものがいい? やはり今治か? ヒポポなんとかもいいらしいぞ。俺は、サイズ的にマークスアンドウェブを愛用しているが……」

「あの、本当にお気遣いなく……」


社交辞令だろうしと、曖昧な笑みと共にやんわりお断りしようとしたが、なぜかお隣さんはいっそう前のめりになる。


「何を言う! これから隣同士になるんだ。何かと世話になることもあるだろう。こういうことは、きっちりしておくべきだ。なあなあでは気が済まん」

(お、お世話はしないしっ! きっちり落とし前とか結構ですからっ!)

「そ、そうですか。それはご丁寧にありがとうございます」


心の中で悲鳴を上げながら、じりじりと後ずさりする。


「で、帰りは何時だ?」

「え、し、七時半」


つい馬鹿正直に答えてしまった。


「じゃ、その頃部屋に行く」


大きな口が横に広がり、真っ白い歯が覗く。

犬歯はなかなか鋭そうだが、牙を剥いたわけではない。
たぶん笑った、のだろう。

しかし、怯え切ったわたしの目には、「笑顔」という名の「脅迫」に見える。


「あのぅ、トラさん。帰宅時間把握するとか、ストーカーっすか?」


逃げ出すタイミングを計るわたしに、思わぬ助け舟が出された。


「は? なんだとぉっ!?」

「やめろよ、タツ。トラさん、あれでも一生懸命、口説いてるんだから」

「ええっ!? いつもに増して凶悪ヅラしてっから、脅してんのかと思った……」

「ばぁか。美人のオネエさん相手に緊張して、顔が強張ってんだよ」


『トラさん』の浅黒い顔が、赤黒くなっていき、ただでさえ怖い顔がさらに怖くなり……。


「お、お、おまえらぁ……」

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