終わらない夢
「瑠夏ちゃん、足早いね…」
「田舎育ちをナメちゃいけないよ」
聞くと、小さい頃から田んぼの周りで走り回って遊んでいるらしい。それは今も同じで、村で最も大きな道路でも交通量がそこまで多くないから、村が公園みたいになっているんだとか。
そんな気はしていたが、やはり前住んでいたところとは違う。前は、都心へのアクセスがよく、様々な場所へすぐ行けた。どこを見ても何かがあって、誰かが居た。ああ、面白いほどに。
「でも、都会も憧れるんだ。みんなキラキラしてて、いろんなものが売ってて…友達だっていっぱいできそう」
「……」
たしかに、事実だけを言えば、ここよりはるかに便利でいろんなものがある。可愛いものからカッコいいものまで。でも、最後は違う。友達は多いと充実するが、多すぎると厄介なことになりかねない。満場一致のパラドックスのようなものだと思う。
「なに?それ」
「へ?」
「その、満場一致のなんとかって」
「…え?」
口に、出ていた?
「難しい顔してなに考えてるのかなって思ってたんだよね。そしたら訳わかんない言葉、出てくるんだもん」
「そ、そうかな…」
「で、そのなんとかって、なに?」
「ええと…」
参ったな、そこに突っ込まれるとは思わなかった。どう説明しようかな。
「簡単に言えば、複数人の意見がぴったり同じだと、それは疑ったほうがいいの」
「なんで?」
とても純粋な瞳で彼女が聞いてくる。…分かりやすく説明するのは難しいな。どうしよう。
「たとえば10人がいて、その全員が全く同じ意見を提示したとすれば、それには何か仕掛けがあるのではないか、という考えですね。興味深いパラドックスです」
「あ、咲也!」
ゆったりと歩いてくるその姿は、昨日と全く同じだった。ふいにさっきの彼女の言葉が蘇る。髪の毛、スタイル…顔。言われてみれば、たしかにカッコいいと思う。昨日とは違う視点で彼を見るのは、仕方ない。ということにしておいた。
「物知りだね」
「伊達に過ごしているわけではありませんよ」
ふたりで楽しそうに話をしている所を見ると、本当の幼馴染であるかのように思われる。いや、幼馴染なのだろうが…それのようでいて、どこか違うような。
ああそうか、彼女の顔を見て分かった気がする。気が置けない仲よりももっと先の……それほどまでに彼に惹かれるところがあるんだ。
< 12 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop