終わらない夢
ぽつりぽつりと、彼は話し始めた。
「いちからお話しします。端的に言うと、僕は神になるために修行をしている身。先ほど仰った師匠に値するのは、僕の父です。父とは言いますが、血縁関係があるわけではありません。私も元は人間でしたが、生贄として神の元へ差し出されました。でも、いきなり神にはなれないので、こうして修行を積んでいます」
「ちょ、ちょっと待って」
私は本が好きな方だし、こんなことも紙切れの上なら頭に入るけど、現実となると話が違う。いきなり神が何だとか、私なりの解釈はかなりの時間がかかりそうだ。
「神になるためって?」
「…この所、自然災害が多発しているのはご存知でしょう?」
こんにち、やけにゲリラ豪雨やら地震やらが多発してるのは知っているし、少なからず私の身にも影響は出ている。もう少ししたら巨大地震が来るかもしれないと言う予測もあるほどだ、何かしらの原因はあるのだろう。
「以前は、神がそれの発生を抑えていました。ですが、神々が疲弊してそれを抑えられなくなってきたのです」
要するに、地震だの何だのの災害は神が操っていて、恣意的なものではなかったということ。どこかの宗教でしかそんなものは登場しないと思っていたから、これは驚いた。
「そこで神々は、人間から何人かを頂戴し、神へ育てあげようとしました。その中のひとりが私です。言い換えると、生贄ですね」
正直、今の話を聞いて、神様は人からなれると思うと、人智とか智慧とかいう言葉が嘘に聞こえてきそうだ。無論、私もただの成長を遂げて神になれるとは思わないが、複雑なところがあるのだろうか。
「お分かりいただけましたか?」
「まあ…それより、なんでそんな笑ってるの?」
さっきからずっとそうだ。話してる途中も、堪えるような仕草をしていた。ナメられているのか。
「いえ…ここまで信じていただけると思わなくて…その、嬉しくて」
ソースは無いが、逆のそれもない。だから信じるしかないだけだが、汲み取れないのも分かるかもしれない。
「まあ、悪い人じゃなさそうだし」
「そんなこと仰るのも、あなただけです」
「この村でも?」
「ええ」
どれほど器が狭いのか。大そうな話をしてはいるな、とは思うが、そこまで拒絶するような話でもない。ただ、それに関しては私の個人的な意見にしか過ぎない。
「本当に信じたわけじゃない」
「それでも構いません。こうして話せています」
どうやら何度も裏切られたか、信じてもらえなかったらしい。心の傷は、人の比ではないように見える。
「みんなに、信じてもらえなかったの?」
「はい。寝言、戯言、虚言癖…様々です」
仮に今の話が本当ならば。彼は相当の意思を持っていたか、不可抗力かだ。今の様子を見る限り、前者だと思いたい。だが後者だった時は?私は何で声をかけるだろう。
「…そうだ、この門堂にまつわるお話はご存知ですか?」
「門堂って…ここのこと?」
「ええ。はるか昔のことになりますが—」
< 6 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop