料理男子、恋をする


ところが思わぬ方向に話が転んだ。大瀧家の花見に佳亮が招かれたのだ。薫子はとても申し訳なさそうな顔をしていた。望月との婚約が破棄にした理由を聞かれたのだという。

「うう、厳しく追及されそうですね……」

薫子の交際相手として、佳亮はあまりにも平凡だ。家族が良い顔をしないのは、当たり前だろう。薫子の表情も冴えない。

「せめて、何かお土産を持って行きましょう。ご家族の好物とかありますか?」

「おじいさまは筑前煮が好きなのよ。今も平田に別で作らせるくらい。でも一番好きなのはおばあさまが作られた筑前煮ね」

それはまたハードル高いな。煮物はただでさえ家庭ごとで味が違う。

「おじいさまがすっぱい味がお好きで、おばあさまが工夫されたって聞いてるわ」

筑前煮に酢を入れる家庭もある。鶏肉のくどさが薄れて食べやすいと言われるらしい。

「取り敢えず酸味を利かせたお弁当でも作ってみます。薫子さんに対する誠意だけは持っているつもりなので、頑張ります」

薫子が複雑な顔で、なんて言ったら良いのかしら、と呟いた。佳亮も薫子も、楽観できない壁だなあ、と感じた。

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