料理男子、恋をする
ある日の食事中、何時ものようにオムライス奮闘記を語る薫子が不意に佳亮に尋ねた。

「佳亮くん。……私の話、煩い……?」

首を傾いで、佳亮を見る薫子は新しい経験を親に話したくて仕方ない子供のようだ。はっとした佳亮はすかさず微笑んで、そんなことないですよ、と返事をした。

「でも……、最近あんまり話に乗り気じゃないように見えるし……。もし煩かったら」

「薫子さんの話で、煩いことなんて、ありませんよ」

にこりと笑って。

そう。薫子の話で煩いことなんてない。それは本当だ。薫子が佳亮と共有しようとしてくれる全てのことが嬉しい。それなのに胸の内にあるこのもやもやとした気持ちは何なんだろう。

食べ終わった食器を引いて洗い始める。この頃薫子は食器を引くことを手伝い始めていて、佳亮がスポンジで皿を洗っているところへ自分の使った食器を持ってきて、そして横から佳亮の顔を覗き込んだ。

……まるで、佳亮の機嫌を窺うように。

佳亮は口許に微笑みを浮かべて食器を洗っていた。薫子の為にしてあげられることは、何でも楽しい。美味しいと言って食べてくれる食事の支度も片付けも。ただ、実家での話だけが、佳亮の気持ちを締めつけていた。

「じゃあ、また二週間後。戸締りしっかりしてくださいね」

「うん、今日もありがとう」

見送ってくれる薫子の顔には元気がない。佳亮の気持ちの揺れが、薫子の顔を曇らせているのかと思うと、佳亮は辛かった。

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