料理男子、恋をする


幼い頃から薫子は利発だったので、周りの大人がお膳立てするパーティーやプレゼント、友達について非常に冷静に判断していた。つまり、自分を通して父や祖父を見ているのだ、と。

だから家に帰って顔合わせされる友達よりも、学校で薫子に憧れてくれる女子生徒の方がよっぽどかわいかった。

「大滝先輩、クッキー焼いたんです。貰ってください」

「先輩、今日、剣道の練習試合ですよね? 応援に行きます。頑張ってください」

今日も可愛い後輩たちに囲まれて武道場へ行く途中だった。部室へ寄って行こうと思ったら、校門からグレー地に臙脂のラインの学ランを着た男子生徒の集団がやってきた。一人、背がずば抜けて高い人が居る。……その人の顔に、見覚えがあった。薫子の誕生日パーティーに来ていた男子のうちの一人だと思う。…望月と言ったのではなかっただろうか。

薫子の誕生日パーティーに呼ばれた子供たちは、皆薫子と仲良くしようと試みる。その努力を薫子が無碍にしてしまうので、子供たちの努力は徒労に終わってしまうのだが、望月はそういう努力をせず、部屋の隅の壁に背を預けてじっとしていた。薫子の傍に寄ってこなかったし、背が高かったので覚えていた。

(……へえ、望月くんも剣道やってたんだ……)

幼い頃から護身術として柔道と剣道を嗜んでいた薫子は、武道の精神を大変気に入っていた。望月も剣道を習っているのなら、薫子の気持ちがわかるかもしれない。そう思った。



練習試合の結果は、女子は当然薫子たちが勝ったのは良いとして、男子は望月たちに完敗だった。望月はまるで隙を見せず、その竹刀が薫子の学校の生徒の面や胴を易々と取っていった。その竹刀さばきは薫子から見て完璧だった。薫子は武道の面で、初めて他人を凄い、と思った。
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