最後の悪夢
幸運にも鬼は撒けたらしかった。
十分ほどそこで身を潜めていた。
時計が指すのは二時二十二分。
まだあの車が突っ込む騒動から三十分も経っていないのである。
「すみません、変に居座ってしまって」
私は店の人に謝った。
にこにこと笑うおばさんだった。
「いや、いいんですよ。なにか追いかけっこでも?」
「黒いフードを被った人は見ませんでしたか?」
「いなかったねえ」
「そうですか……ありがとうございます」
いない? ああ、でも、反対方向に行ったのかも。
とりあえず安心して凛上を見れば、なんだか不思議そうな顔をして私を見ていた。