赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
震える手でシャツのボタンを開けて、膝立ちして首を彼の口元に近づけた。


これは緊急事態。緊急事態だから仕方ない。
人助け、吸血鬼助けだ。

大丈夫、大丈夫、大丈夫……。



「……ありがとう」



苦しそうに呼吸をしている彼の顔つきが少し和らいだ。

髪の毛が耳にかけられ、首の後ろに手が回ると、



「っ────!」



鋭く尖った牙が首筋に食い込んだ。


やっ、なにこれ……っ。


皮膚を突き刺す痛みと、血を吸われている感覚。

恐怖でしかないのに、なぜか快楽を感じている。


どうして? 唇が触れているから? 手つきが優しいから?

未知の感覚に頭の中がぐわんぐわんと激しく揺れて、平衡感覚を失いそう。


ガクガク震える体を支えるように、彼のもう片方の腕が腰に回った。


っも、ダメ……。



「…………やっと会えた」



吸血が終わり、耳元で優しい声が聞こえたのを最後に──私は彼の肩にもたれかかって意識を手放した。
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