赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―

危ない危ない。スープを噴き出すところだった。

もう、柚季ちゃんったら。不意打ちで潤くんの名前を出さないでよ。



「未だに、優しい優しいキッスを思い出しちゃう?」

「ちょっ、その言い方やめてよ! ただの治療だって言ってるじゃん!」



あぁ、また柚季ちゃんの妄想が始まった。


3週間前──潤くんに顔の傷を治してもらってから、彼との間に少しぎこちない空気が流れている。


というのも、あの後途中まで一緒に帰ったんだけど、会話をすることもなく別れちゃったんだ。

からかいすぎて反省してたのか、潤くんは私の顔を見ようともせず。

『じゃあまたね』って言うまで、ずっとだんまりだったの。


しかもその翌日……。



『おはよう風花……って、どうしたその顔。寝不足?』

『うん……なかなか寝つけなくて』

『遅くまで勉強してたの?』

『勉強はしたけど、11時にはベッドに入ったんだよ。でも、なんかザワザワして落ち着かなかったの』

『ザワザワ? 何か悩み事でもあるの?』

『いや、悩み事ってほどでは……』
< 213 / 316 >

この作品をシェア

pagetop