赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
ボソッと返事が聞こえると、綺麗な顔が首元に近づいてきて、反射的にギュッと目を瞑った。



「チクッとするよ」

「うん……」



吐息がかかるのを感じ、シャツを握る両手に力を入れる。



「いっ……」



すると、チクッとした痛みが首筋に……ではなく、手の甲に広がった。



「……ごちそうさま」

「…………えっ?」



予想と反する状況に戸惑う。

もう終わり? 3秒で終わっちゃった。
っていうか、一口しか飲んでなくない?



「一口だけでいいの?」

「うん。千冬にもらったサプリがあるから平気。あと、恐怖症克服だけど、いきなり首からだと怖いだろうから、まずは手の甲から始めて、徐々に慣らしていこうかなって思ってる。どうかな?」



昔と変わらない優しさに胸がときめいた。

この短時間で色々考えてくれたんだ……。



「ありがとう……よろしくお願いします」

「こちらこそ。よろしくね」



彼の柔らかな笑顔を見た瞬間──眠っていた幼い頃の恋心が再び目を覚ました。
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