金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
 芳乃の時代は援助交際と呼ばれていた。それすら、ずいぶんカジュアルに呼ぶものだと思っていたのに。時代の流れは速すぎて、ぼんやりしている芳乃はすぐに置いていかれてしまう。

「でもさ、女の人にとったら結婚もパパ活みたいなもんでしょ? 気前のいいお財布を探すのが目的なんだから」
 
 霧斗にしては、少し棘のある言い方だった。言ってから自分でも察したのか、彼は少し気まずそうな表情になる。

「あ、芳乃さんは違うか。大病院のお嬢様だもんね」
「ううん。パパ活って言葉は核心をついてるかも。うちの場合は主人がパパ活してたんだわ、きっと」
「なにそれ?」

 霧斗はふっと目を細めて笑う。芳乃は霧斗のこういう顔がたまらなく好きだ。

「芳乃さんがお金持ちだから、パパってこと?」
「違う、違う。私はパパの付属物。夫にとっては、あってもなくてもどっちでもいいもの」

 パパは文字通り、芳乃のパパだ。匠が欲しかったのは、芳乃ではなく父との繋がりなのだ。彼は見事パパ活に成功し、大病院の次期院長の座を手に入れた。

「寂しい?」

 霧斗はそう芳乃に問いかける。心配するふうでも、同情しているのでもない。彼の感情はいつもフラットで、だからこそ彼には嘘偽りのない本音を打ち明けられる気がした。
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