金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「遅いな、匠くんは。今日は早番だったはずなのに、なにやってるんだ?」

 父は苛立った様子で、腕時計に目をやった。両親が予約してくれたのは、芳乃の好きな和食の料亭。待ち合わせ時刻を三十分も過ぎているというのに、匠はなんの連絡もよこさない。

「担当患者さんの容態が急変したんじゃないの? 医者にはよくあることでしょ」

 母が匠をかばい、父をなだめた。患者の急変か里帆子との逢引か、理由はなんにせよ彼にとって芳乃の誕生日は連絡するほどの価値もないということなのだろう。

「もういいじゃない。たまには親娘水入らずを楽しもうよ」
「よくないぞ。今夜はふたりにきっちりと子供の話をしようと思ってたのに」
「もうわかってるから。その話は……」
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