金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「そうね。聞いたことないけど、あの人はきっと薔薇が好きだと思うわ」

 匠は華やかでゴージャスなものが好きだ。車もインテリアも……女も。花にたとえるならば、里帆子はきっと薔薇だ。自分はさしずめ薔薇の魅力を引き立てるかすみ草だろうか。
 いや、きっと匠にとってはかすみ草ほどの価値もない。薔薇の成長をさまたげる雑草程度に思われていることだろう。

「週末は花を飾ってお食事ですか? 素敵なご夫婦ですね」

「ふふ。そうね、ありがとう」

 そう返すつもりだったのに、彼のまっすぐな瞳に嘘はつけなかった。

「ううん。ひとりなの。この花は自分のため。自分を慰めるために、部屋を掃除して花を飾って美味しいご飯を作るの」

 彼が戸惑っている。それはそうだろう。知らないおばさんの身の上話なんて聞きたくもないだろう。
 きょとんとしていた彼はいいことを思いついたというように、にっこりと笑った。

「それなら、俺とご飯しませんか?」

 今度は芳乃がきょとんとするばんだ。

「えっと……それって……いま流行りのママ活的な?」

 こんな綺麗な顔をした若い男の子の食事をするなら、それなりの対価を求められるはずだ。

(でも、悪くないかも……)

 数万程度の金で、この虚しい時間をなんとかできるなら決して高くはない。

「ママ活じゃないけど、対価はもらいたいかな」

 彼はにやりと悪戯な笑みを浮かべた。

(もしかしたら……数万じゃ済まないのかしら)

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