余命38日、きみに明日をあげる。

すれ違う瞬間「邪魔、」……聞き間違いでなければそう聞こえた。

その直後、バシャンと足に冷たいものがかかった。

「……っ!」
 
見ると、白い靴下に泥水が跳ねていた。

昨晩降った雨で水たまりができていたのだ。 

勢いで生まれた水たまりの中の輪と泡が、ゆっくり消えていく。
 
走り去っていく後ろ姿には見覚えがあった。

4組の星野さんだ。

悠々と自転車こいでいく後ろ姿を、きしきしと痛む胸で見送る。

「大丈夫だったか?」
 
琉生が私の足元を見る。

「うん、大丈夫」
 
泥水の跳ねた靴下を見られないように、左足を後ろに隠した。
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