余命38日、きみに明日をあげる。

「ただいま」

普段は家に帰っても誰もいないが、今日は店の定休日。

毎週水曜日は休みと決まっているため、この日はなるべく父さんと顔を合わせない
ようにそのまま自分の部屋へ上がる。

……けど。階段を上ろうとして、俺はその足を戻しリビングへ入った。

暖房のついた温かい部屋には、父さんが見ているテレビの音と、母さんがキッチン
で料理を作っている音が混ざり合っていた。

何度も見慣れた当たり前のように存在している光景だが、これはとても暖かく幸せなことなんだろう。

非日常の病院から戻れば、それが余計に胸にしみる。

けれど、俺と父さんの間には、見えない亀裂が入っている。

俺はそのまま、父さんの向かい側のソファに腰を下ろした。

父さんは、少し驚いたようにテレビから俺へと視線をずらした。

その瞬間を狙い、息を吸って、言った。

「父さん、俺、やっぱり大学に行きたい」

こうやって父さんの顔を真正面から見たのは、いつ以来だろう。
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