愛は知っていた【完】
表面上では偽りの恋人を置いて裏の部分に本命を隠しておけば、誰からも罪を咎められることなく、俺は朱里と今の関係を続けていくことができる。
いつの間にか俺は欲張ることを止めていて、朱里との距離を現状維持できるだけでも十分だと、そう前向きに物を考えることを決めたのだ。

しかしこれはあくまで俺の主観だ。
朱里はそんな水面下で逢い引きを重ねる人生なんかを受け入れてくれるのか。
その意思を確認するのを恐れていた俺にとって、こうして彼女が現れてくれたのは絶好の機会になりうるのかもしれない。


「朱里、紹介するよ。俺の彼女だ」
「そうなんだ。お兄ちゃんがいつもお世話になってます」
「いえいえ、こちらこそ。写真で何度か見たことあったけど、やっぱり可愛い妹さんねー」
「そんな、お姉さんこそとっても美人で、お兄ちゃんには勿体ないくらいです」
「やだもう、お口が達者なんだから」
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