愛は知っていた【完】



歯車が狂いだしていたのだと気付かされたのは、久しぶりにきた白井先生からの電話が全てだった。
白井先生とは中学の頃から定期的に連絡をとっていたのだが、互いに他所での人付き合いもあるせいか最近その頻度も減りつつあった。
恐らく最後に顔を合わせたのは一年近く前に元中の野球部の面々で飲み会をした時じゃないだろうか。

電話越しに聴こえる白井先生の声調はいつになくシリアスな雰囲気を持っていて、表情さえ見えなくともきっと真面目な話をするのだろうと容易に察しがつく。
軽く挨拶を交わしたあと俺はどんな用件があるのだと構えていたのだが、耳を当てた携帯電話からは何も聴こえず、俺が白井先生を呼んでも返事はない。
首を傾げつつも口を噤んでそちらの出方を待つことにする。

短くも長くも無い沈黙のあと、何かを言い淀んでいた白井先生がやっと口を開いた。
その要求に俺は一時唖然としてしまう。
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