君のブレスが切れるまで
 マンションの下で見た、大きなポスターと同じもの。でも、どうして……。
 私の鼓動が早くなるのを感じる、一緒に行きたいのは本望。けど、明日は恐らく天気が崩れるはず。それに雨はなんで、このタイミングで言ってくるの。


 私の欲しい言葉をくれる雨、嬉しいのに今の私にはそれを受け止められない。だって、私は雨のためになにかしてあげたいのに、私ばかりがこうやっていい思いをしている。


 いつの間にか自分の視線が下に向いていることに気づき、それと同時に悪い方へと考えが向かっていく。
 雨は私のために無理をしているかもしれない。好んで人混みに行きたいというタイプじゃないのは知っていた。いつも物静かで、部屋に籠もって勉強や読書をしているのを見たことがある。


 今日だって私が言い出したから、買い出しに付き合ってくれたのだ。私が行った場所より、彼女が向かった商店街の方がはるかに人は多かっただろう。
 本当は行きたい。でも、もし雨が本当は行きたくないのだとしたら、そんなことは言えない。
 私の口から絞り出すような声が漏れる。


「……行かない」


 そう言ってしまった。
 多分、気持ちを聞きたいなんて言っても、雨は私の気持ちを優先して行きたいと言ってくれる。今だって私の為に言ってくれているんだ。だから絶対にそう言ってくれるのがわかっていた。


 雨は行きたくないはず、部屋でゆっくりしたいはず。これが雨のためなんだ。
 そう決めつけ、ゆっくりと顔を上げると――


< 132 / 270 >

この作品をシェア

pagetop