君のブレスが切れるまで
「ねぇ、雨。私、やっぱりアルバイトしようかな」
「お金が必要なのね。いくらくらい?」


 間髪入れず、雨は私へそう言ってくる。前にもこんな話をしたんだけど、その時も同じことを言われた。その時はまさかの返事に言葉が詰まり、私が何も言えなくなってそのまま話は流れてしまった。しかし、今度はちゃんと伝える。 


「そんなんじゃないよ。私はただ、雨の為になにかしたいなって思ってさ。家に住まわせてもらってるし、学費や食費いろいろなことにお金を出してくれてる。少しくらい私にも――」
「お金のことなら心配いらないわ。恐らく、奏を一生養っていけるほどのお金はある」


 あぁ……なんとなく想像ついていたけど、やっぱり雨ってすっごいお金持ちなんだな。だけど、私を一生養っていけるってどういう意味なんですか。


 そんな唖然とした私の顔を見て、彼女も思うところがあったのだろうか。すぐに訂正の言葉を入れてくれる。


「例え話だったとしても失言だった、ごめんなさい。どうしてもアルバイトをしたいというのなら、止めはしないけど無理はしないでほしい」


 前の援助交際とか人間関係の話だろうが、無理をしてるのは雨の方だと感じる。赤い眼が揺れ、その奥で寂しそうな表情が垣間見えたような気がしたから。


「もしかして、私がいないと雨は寂しい?」


 意地悪そうに言った途端、急に雨の足が止まり、私も歩むのを止める。


「わからない」
「え……?」


 それだけを言うと何事もなかったように、すぐに雨は歩き始めた。
 地雷を踏んでしまったのか、でも『わからない』なんて、それじゃ私の方が寂しくなってしまう。
 とにかくアルバイトをすることが彼女の為にならないのなら、それは私としてもやる必要がないことだ。もし必要になった場合は、こっそりと日雇いのバイトでもしよう。


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